はじめに
「就職」は、一人の人間にとって、生活の安定や社会参加を通じての生きがい等、生きていく上で極めて重要な意義をもっているものであり、人生を左右しかねない重大な決定にかかわるものです。わが国の憲法において「職業選択の自由」を基本的人権の一つとしてすべての国民にこれを保障しているのも、このような趣旨に基づくものです。一方、雇用主にも、採用方針・採用基準・採否の決定など、「採用の自由」が認められています。しかし、「採用の自由」は、応募者の基本的人権を侵してまで認められているわけではありません。労働者の採用選考に当たっては、何よりも『人を人としてみる』人間尊重の精神、すなわち、応募者の基本的人権を尊重することが重要です。
採用選考の基本的な考え方
採用選考は、
- ●「人を人として見る」人間尊重の精神、すなわち、応募者の基本的人権を尊重すること
- ●応募者の適性・能力に基づいた基準により行うこと
の2点を基本的な考え方として実施することが大切です。
応募者の基本的人権の尊重
- ●日本国憲法(第22 条)は、基本的人権の一つとして全ての人に「職業選択の自由」を保障しています。
- ●一方、雇用主にも、採用方針・採用基準・採否の決定など、「採用の自由」が認められています。
- ●しかし、「採用の自由」は、応募者の基本的人権を侵してまで認められているわけではありません。
- ●採用選考を行うに当たっては、何よりも「人を人としてみる」人間尊重の精神、すなわち、応募者の基本的人権を尊重することが重要です。
適性・能力による採用選考
- ●「職業選択の自由」すなわち「就職の機会均等」とは、誰でも自由に自分の適性・能力に応じて職業を選べるということですが、これを実現するためには、雇用する側が、応募者に広く門戸を開いた上で、適性・能力に基づいた基準による「公正な採用選考」を行うことが求められます。
- ●また、日本国憲法(第14 条)は、基本的人権の一つとして全ての人に「法の下の平等」を保障していますが、採用選考においても、この理念にのっとり、人種・信条・性別・社会的身分・門地などの事項による差別があってはならず、適性・能力に基づいた基準により行われることが求められます。
公正な採用選考の基本
「公正な採用選考」を行う基本は、
- ●応募者に広く門戸を開くこと
- ●本人のもつ適性・能力に基づいた採用基準とすること
にあります。
応募者に広く門戸を開く
- ●「公正な採用選考」を行うには、まず、「応募者に広く門戸を開くこと」が求めらます。
- ●ごく限られた人にしか門戸が開かれていないようだと、「就職の機会均等」を実現することはできませんので、求人条件に合致する全ての人が応募できるようにすることが大切です。
適性・能力に基づいた採用基準とする
- ●「公正な採用選考」を行うには、「応募者が、求人職種の職務遂行上必要な適性・能力をもっているかどうか」という基準で採用選考を行うことが必要です。
- ●例えば、本籍地や家族の職業など「本人に責任のない事項」や、宗教や支持政党などの「本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)は、本人が職務を遂行できるかどうかには関係のないこと・適性と能力には関係のないことであり、これらを採用基準にしないことが必要です。
適性・能力に関係のない事項の把握
- ●適性・能力に関係のない事項は、それを採用基準としないつもりでも、応募用紙に記載させたり面接時に尋ねたりすれば、その内容は結果としてどうしても採否決定に影響を与えることとなり、就職差別につながるおそれがあります。
- ●応募者にとってみれば、採用側が採用基準としないつもりの事項であっても、尋ねられればそれが採用選考の基準にされていると解釈してしまいます。また、それらの事項を尋ねられたくない応募者にとってみれば、尋ねられることによって精神的な圧迫や苦痛を受けたり、その心理的打撃が影響して面接において実力を発揮できなかったりする場合があり、結果としてその人を排除することになりかねません。
- ●なお、求職者の個人情報を保護する観点から、職業安定法第5 条の4 及び指針(平成11 年労働省告示第141 号)により、社会的差別の原因となるおそれがある個人情報などについては、原則として収集が認められません。